13. 2015年日本形成外科学会総会パネルディスカッション
2015年4月8日、日本形成外科学会総会初日の午前にパネルディスカッション「肝斑(レーザー)」が行われた。
パネリストは、2年前の日本形成外科学会とほとんど同じメンバーであった。会場の聴衆からは熱い議論が繰り広げられるのを期待されているのは分かったが、実際にはかなり低調な議論に終わってしまった。いつものようにLT賛成派医師4名とLT反対派(筆者)1名の発表であった。
賛成派からは何も新しい学術的裏付けは出されずにただ「やってみたらよかった」の連呼ばかり、反対派の筆者からは増悪例の報告とLTが効く理由がないという概念的な発表だけ、正直言って2年前と何も変わっていない。
ただ、だからこそ、LTの本質があぶり出されてきた面もあると思う。
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LTを施行すると一時的に肝斑の色は薄くなる
これは事実のようである。Y医師とK医師は、特に始めは1~2週間隔でやると白くなると発言していた。H医師は1か月間隔でよいのではと述べていたことから見て、このあたりの問題については賛成派の間にも温度差はあるようである。(筆者は、LTをやめるとすぐに戻るのだから、どのみち、この治療は意味がないという意見)
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LTは実は肝斑治療の特殊なオプション
「肝斑にLTが有効である」というフレーズが独り歩きしているが、LTの元祖Y医師は、全肝斑患者の1~2割にしかLTは行わないと述べていた。肝斑患者全員にLTを行うなどということは考えられないとも述べていた。K医師もH医師も、いろいろな方法で肝斑を治療する中でLTが有用な点があるという意味の発言をしていた。
要するに、始めから全肝斑患者にLTを行うという方法は考えられない、という点では意見は一致している。
結局、「肝斑はレーザートーニングで治る」というフレーズは、業者(JMEC)が都合よく作り出した宣伝文句であったことがはっきりした。 -
LTには文献的エビデンスがない
筆者は、LTには文献的エビデンスがない(有効と断ずるに足る学術文献が出ていない)ことを指摘した。
エビデンスがない治療が世間でこれだけ流行するのも異常なことだし、これだけ有名な治療に何年たってもエビデンスレベルの高い文献が出てこないことも不思議なことである。
このことから考えて、LTは科学的には「まやかし」である可能性が高いと考えられる。 -
LTを行うと、増悪・白斑形成が起こり得る
Y医師も、LTには副作用として肝斑増悪・白斑形成の可能性があることを認める発言をしていた。
だからこそ、その頻度や発生率を抑えるように努力しているとも述べていた。この点に関して、筆者は異議をとなえて発言した。母斑の治療や刺青除去と異なり、肝斑の治療は高度に美容的なものであり、また他に治療法のオプションがあるのだから、治療によって難治性の白斑を形成することは絶対に避けなければいけない。頻度が少なければ起こっても良いというのは乱暴すぎる、と反論した。
本パネルディスカッションをまとめると以下のようになる。
まず、賛成派・反対派のどちらからも新しい有力な科学的根拠は提示されなかった。
ただし、賛成派のどの医師も、肝斑の総合的治療の一部オプションとしてLTを利用しているだけであって、業者(JMEC)の宣伝しているように肝斑患者にすぐにLTを施行している医師はパネリストの中にはいなかった。その中で筆者は、LTに一部良い面があったとしても、やって良いということにはならない。こういう複雑で危険を内在しているものごとは総合的に判断すべきである。たとえば原発はCO2を排出しないという良い点があるが、他の功罪も含めて総合的に判断すべきであって、CO2を排出しないから原発を推進するのが正しいということにはならない。同じように総合的に考えればLTは行うべきでない、と述べた。
ただし、学会でこうした議論を行うことは意義があると思う。
(2015/4/19記)